Less Than JOURNAL

女には向かない職業

YO!マーキー・マークだYO!チェケラー!

ロック史上に残る「弟想いのミュージシャン」は? と訊ねられたら(そんなことを訊ねられる機会は一生ないかもしれないけど)、即答で次のふたりの名を挙げる。

ひとりは言わずもがな、ブライアン・ウィルソン
もうひとりは、ドニー・ウォルバーグ。

ドニーの弟は、マーク。
ブラピをぐっとマッチョにしたような甘くワイルドな風貌から、今や「にせピ」とか「さるピ」とか、一部地域では「ハリウッドの朝倉健太」とか呼ばれ(うそ)、とにかくセクシーでクールでデンジャラスな知性派の演技派として知られているマーク・ウォルバーグ。しかし、そんなウォルバーグ氏もわたしの中では永遠にマーキー・マークだYO!

なぜならば。映画「8マイル」さながらのスラム街で育ったニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックNKOTB)のドニー・ウォルバーグ君がド根性と才能でスーパー・アイドルの座に上りつめた1991年、かつて共に音楽活動をしていたこともある、可愛くて可愛くってしょうがないヒップホップ好きの弟に贈った最高のプレゼントが、そう、ドニー自身のプロデュースによるラッパー《マーキー・マーク》のデビュー! だったからだYO!

その名も、マーキー・マーク・アンド・ザ・ファンキー・バンチ!

師匠のモーリス・スター同様、流行への鋭い嗅覚と普遍的ポップ・センスを併せ持つドニーのプロデュースによるマーキー・マーク・アンド・ザ・ファンキーバンチのアルバムは、めちゃめちゃカッコよかった。まぁ、いかにもあの頃のビートという感じだが。《バブルガム・ヒップホップ》の名盤だった。もちろん売れた。シングルは5曲がチャートイン。全米ナンバーワンも獲った。
ところが。結局、オンナコドモ層以外の人々からはジャリタレ文化のアダ花だという偏見でマトモな音楽的評価を得難かったNKOTBの関連アイテムということもあり、しかも売れちゃったこともあり、まぁ、けっこうギャグにもされがちだったり……ホット100チャートでは1位でも、R&Bチャートでは全然ダメだった。しょせんはバブルガム、だし。マーキー・マークとしては不本意な結果だったに違いない。とにかく、その後、俳優マーク・ウォルバーグとして成功した後、マーキー・マーク時代のことは「あ、あれは若気の至りなんで。なかったことにしてちょ(笑)」みたいなことばっか言ってるんだYO! つまり、彼にとってのマーキー・マークは、菊池桃子にとってのラ・ムーというわけだ。

グッチのスーツを着て「エスクワイヤー」とか「インスタイル」とかオサレな雑誌のグラビアを飾り、「若い頃はヒップホップファッションに夢中で、バカみたいにスニーカーを買いあさったりしていたものさ。あはは」なんて言ってるんだYO!

しかし。本人がどう言おうとも、いかにマーク・ウォルバーグが名優として名を馳せようとも。ドニーくんを愛するわたしの中ではマーキー・マークは永遠にマーキー・マークと呼ぶことに決めているんだYO!*1

えー。ということで。軽く本題を。
マーキー・マークさんの最新主演映画『ザ・シューター/極大射程』を観た。
原作も《このミス》ランクインしてたし、なかなかおもしろかった。
まぁ、どっかーん!どっかーん!と爆発しまくり撃ちまくり殺されまくり!みたいな展開は好き嫌いが分かれるところだろう。派手なドンパチの中、ランボーばりの肉体美で闘い続けるマーキー・マークのカッコよさは単純にスカッとするけど……観ようによっては、これ、昨今ちょっと珍しいくらい全米ライフル協会の喜びそうな展開の映画ではある。ヒロインの未亡人がひとり暮らす南部の一軒家で「あー、拳銃持っててよかったぁ♪」という展開もあるし。このヒロインは、ライフルのお手入れまで自分でできちゃうのです。

物語の中盤。ここ、ロック・ファンとしてはいちばん見逃せないところです。マーキー・マーク演じる主人公の、アメリカで最高の狙撃手とされる元海兵隊員が密かに教えを請うため訪ねたのは……南部の農場みたいなところで静かに隠遁生活を送るめっちゃ変わり者の《伝説の銃マエストロ》じじい。

そして。その銃マエストロじじいを演じるのは誰あろう、
レヴォン・ヘルム先生でーす!
ザ・バンドのね。

出たっ!これはナイス・キャスティング!今はもう、レヴォンだか藤山一郎だかわかんないくらいに痩せてしまっておられますが。それがまた、もう、いかにも南部の銃マエストロじじい……という感じで。静かで穏やかで、それだけに内側に秘めた激ヤバな何かがじわじわと伝わってくるような。
それにしても、レヴォン・ヘルムとマーキー・マークが共演とは!
ある意味、わたし的にはかなり夢の共演。オレのレコード棚っぽい、みたいなコラボだ。

その昔、ザ・バンドのデビュー前だか初期の頃、レヴォン・ヘルムの家に遊びに行ったロビー・ロバートソンにレヴォンの父はこう言ったのだそうだ。
「いいか。よく聞け、ロビー。いつの日か、南部は再び立つ!」
アメリカ南部音楽に憧れてカナダからやってきたロビーは、
「ひぇー。ホンモノの南部人だー。やっぱホンモノはすげーや」
とびっくりぎょうてんしたそうだ。
ロビーの話によれば、その時、レヴォンの父ちゃんは冗談めかした笑顔だったそうだが、目だけは笑っていなかったそうだ。

そんなレヴォン父の息子(つまりレヴォン)が演じる南部のガンコな銃マエストロじじいには、きっと父の面影が何らかのカタチで混じっているのではないだろうか……と思うのです。

*1:ちなみに兄ドニーも現在は俳優として活躍中。映画「シックス・センス」「ドリームキャッチャー」、TVシリーズ「バンド・オブ・ブラザーズ」などで弟とはまったく芸風の異なる、強烈な個性の役柄を演じて評価されている