Less Than JOURNAL

女には向かない職業

NOEL

  • 『NOEL ノエル』(2004・アメリカ)【公開中@銀座東劇】

 チャズ・パルミンテリの初監督作品が、好きにならないはずはないのだ!

 俳優・パルミンテリの出世作といえばもちろん、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた『ブロードウェイと銃弾』(94年・ウディ・アレン監督)。この映画も大好きなのだが、わたしにとってのパルミンテリは何と言っても93年の『ブロンクス物語/愛に包まれた街』。もう、我がライフタイム・ベスト10に入るであろう作品だ。これはロバート・デ・ニーロの初監督作品で、パルミンテリは主人公の少年が憧れるブロンクスのギャングを演じているのだが。この物語、そもそもはパルミンテリ自身の脚本・主演による半ば自伝的な舞台作品だったのだ。地元ニューヨーク公演はチケットが4ケ月ぶん売り切れるほどの大ヒットを記録して、デ・ニーロが映画化権を獲得したのだという。
自らもパルミンテリ同様ブロンクス出身のイタリア系アメリカ人であるデ・ニーロが、初めて監督としてのメガホンを取ることを決意するほどに魅了された『ブロンクス物語』。この映画についてもいずれ書くかもしれない。が、とにかく、そのパルミンテリがニューヨークを舞台に描くクリスマス・ストーリーだというのだから、誰がなんと言おうとステキでないはずがない。

 ちょっぴりフシギな物語。フランク・キャプラを敬愛する(イタリア系だしね)パルミンテリらしい、現代ニューヨーク版『素晴らしき哉、人生!』みたいな。

 そしてやっぱり、さすが、何よりもニューヨークの描き方が美しい。
 ウディ・アレンとはまた全然違う視点だけど、こちらも抜群に美しい。
 雪が降るクリスマスの朝、スーザン・サランドン演じる主人公がたくさんのショッピング・バッグを両手にスタスタと(しかし少々ヨタヨタと)歩いてくる最初の場面からして、現代のマンハッタンでありつつ50年代の映画風なレトロ感をたっぷりと漂わせていてうっとり。

 物語は、それぞれの事情でクリスマスの夜が楽しくない5人の男女が、それぞれの小さなきっかけで奇跡を呼ぶ……という、本当にさりげなーいエピソードの詰め合わせみたいな感じなのだけれども。パルミンテリ監督はニューヨークならではの“冷たさ”と“温かさ”を巧みに丁寧に描いていて、その温度感のコントラストがエピソードひとつひとつと結びついて、ものすごく魅力的な群像劇ができあがっている。つまり、エピソードは“どこにでもありそうな話”でありながらも、ニューヨークという舞台なくしては絶対に成立しない物語だなぁと思った。

 初の監督作品ということもあってか、正直、重箱の隅をつつきたい点がないわけではない。構成にツメの甘さを感じる場面もあるし、映像の雰囲気に依存して無理矢理ハッピー・エンドに着地させているような局面もあるし。同じ“作り話のハッピー・エンディング”でも『さよなら、さよなら ハリウッド』における手練れというか老練というか狡猾というか(笑)、そういう「うまいッ! よくできてる!」的なお話ではない。まぁ、もともと舞台人ということで、そのあたりのツジツマ合わせ感覚の荒っぽさは“舞台劇”的なのかもしれないけど……。ただ、そーゆーところが気にならないくらい、映像や登場人物に注がれる愛が心地よいのだ。『ブロンクス物語』におけるデ・ニーロのように、パルミンテリが自ら監督を手がけたいと決意するだけの“必然”を感じる映画だ。その必然……もしくは運命みたいなものが観ていて伝わってきて、それだけでもう、何もかもオッケーと思える。そういう映画。

 で、『エリザベスタウン』に続いて、またまたスーザン・サランドンが好きになった。
ちゃんとしてるよーで、ちゃんとしてない。器用なようで、不器用。
そういう女性を、さりげない気品をもってユーモラスに演じてしまう女優さん。
ベッド・ミドラーの対極、かも。いい意味で。
「滑稽」であることを、哀しいとか醜いものでないものとして演じられるってすごい。めちゃめちゃチャーミング。とってもオバサンらしいオバサンって感じだけど、そこが美しい。
「美しく歳を重ねる」ことが、ドモホルンリンクルのCMに出てくるような「これでも×歳なんです」「えーッ、見えないー」みたいな勝ち負け式で計られがちなのは大間違いと思う。

 ひとつ気になった……というか、なんかヘンだなぁと思ったのはロビン・ウィリアムズに関する扱い。どこにもクレジットがない大物のカメオ出演は、よくある話ではある。が、チラリと顔を見せる程度ならともかく、影の主役というほど重要な役柄だし。クレジットが出せないなら、パブリシティの一環でそれとなく事情を匂わすとか、その程度のインフォメーションがないと不自然すぎる。あえてそういう演出なのかなー、でも、それじゃ不親切すぎ。映画を観ながら「ニセモノ? そっくりさん?」と気になってしょうがなかった(笑)。ので、帰りにパンフレットまで買ってみたが、登場人物の欄に「???」という名無しのシルエットで小さく紹介されているだけ。
たとえば、どっかのバンドのCDに清志郎とかエーちゃんがリード・ボーカルで参加して、しかもPVにまで出演していているのに「シークレット・ゲストだから絶対に名前を出してはいけない」からと、ギターとベースとドラムとキーボードのことだけ詳しく紹介してるよーなもの。どーでもいいことながら、ちょっと気になる。でも、そんないろいろと複雑なオトナの事情を抱えつつ、これだけのキャストやスタッフが集結してるっていうのは監督の魅力だね。
 映画に描かれている“奇跡”というテーマを、パルミンテリはあくまで“人間のチカラ”として描いている。天使はいるかもしれないし、神様が夢をかなえてくれることもあるだろうし。だけど、それが実現する場所には、まず、人間の希望とか信念がないとダメなんだってこと。この映画が実現したのもまた、そういうことだったりするのだろう。だからこそ、フシギなファンタジーなのにフシギな説得力がある。