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女には向かない職業

遅ればせながらアカデミー賞雑感

WOWOWも解約して久しいし、最近は自分の気に入った作品はことごとくカヤの外だし、毎年ほぼまったく興味を失っていたアカデミー賞ですが。今年は、未見の作品を含めて期待のノミネートがいっぱいあっのでちょっと気になっていた。
ブロークバック・マウンテン』は監督賞・脚色賞は獲ったものの、絶対本命と言われていたわりには作品賞を逃した。ハリウッドはやっぱしゲイ題材にキビしいのでは、なんてことを誰かが言ってたけど。ゲイ感覚に支えられてる文化なのにゲイ映画はダメだとしたらゲイ能界ってフクザツねー、みたいな(笑)。そういえば、フィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞を獲った『カポーティ』もゲイ題材っちゃゲイ題材と言えるし。結局『クラッシュ』はまだ見てないのですが、作品賞というのは意外だった。今年の受賞傾向は地味だとか硬派だとか言われるけど、本命が『ブロークバック・マウンテン』で大穴が『クラッシュ』というのは結果はどうあれアカデミックな匂いがしてイイ感じだったのではないだろうかね。『宇宙戦争』まつりになっても困るしね。それはそれ、これはこれ。

《作品賞》『クラッシュ』
《監督賞》アン・リーブロークバック・マウンテン
《主演男優賞》フィリップ・シーモア・ホフマンカポーティ
《主演女優賞》リーズ・ウィザースプーンウォーク・ザ・ライン/君につづく道
助演男優賞ジョージ・クルーニーシリアナ
助演女優賞レイチェル・ワイズナイロビの蜂
オリジナル脚本賞》『クラッシュ』
《脚色賞》『ブロークバック・マウンテン

とにもかくにも、わたくし的にはリーズ・ウィザースプーンレイチェル・ワイズおめでとう♪ ですよ。いやー、よかったよかった。と、こんなにもアカデミー賞の受賞を我がコトのように喜んだのは生まれて初めてかもしんない。しかも、ふたりともゴールデン・グローブアカデミー賞とダブル受賞ですよ。
昨今のバイオ映画流行で、「ハリウッドも題材不足なのであろうか」みたいなことをもっともらしく誰も彼も語るわけだが、わたしはハリウッドに何が足りてよーが足りてまいが関係ないのでそんなことどーでもいい。ただ、バイオ映画は何かっつーと「似てる」「似てない」とかってことが「熱演」という言葉と共に語られがちで。その「似てる」っていうのは、モデルになる人物を写真かなんかでパッと見して判断できるよーなものではないので、日本ではあまり知られていないジョニー&ジューン・キャッシュが「けっこう似てる」とか褒められてたりすると、あんまり褒められてる気がしない。て、まぁ、これはファンの傲慢に過ぎないんですが。確かにホアキン・フェニックスリーズ・ウィザースプーンも、かなり頑張って「似てる」感じを出しているが、そういう見た目以上にジョニーとジューンの性格とかたたずまいみたいなものを完璧に消化したうえでの役作りとゆーところが素晴らしいわけで。ジョニー&ジューンを知らない人にも、彼らを魅力的な人物として伝えている点こそがポイントなわけで。で、この映画では、ジューン・カーターを知らない人でも、リーズ・ウィザースプーンが演じたジューンの可愛らしさとか強さには魅せられたであろうし、そういう意味では、この役で助演女優賞というのは似てる似てないを超越したところでの受賞だったわけで、超めでたいことだなーと思います。ホンモノのジューン・カーターはそんなに大美人というわけでもなくて、でも、ものすごく可愛らしい雰囲気の女性で。こういう“恋女房”がいてこそのジョニー・キャッシュだったなーという感じを、リーズ・ウィザースプーンは見事に映画ならではの“わかりやすさ”で体現していた。
あと『ナイロビの蜂』(日本公開もこのタイトルで決まりみたいだ)は、助演女優賞の他にも脚色賞、作曲賞、編集賞にもノミネートされていた。公開時から予想以上に批評家ウケがよかったみたいで。ル・カレ作品ってクランシーとかラドラム作品と違って映画化しづらいし、この映画もどうせ『ロシア・ハウス』みたいに設定とかあらすじとか“サスペンス部分”を再現するだけで、原作にあるビミョーな情緒や哀愁を映像化するのはムリだろーなーと思っていた。ましてや『ナイロビの蜂』は、刊行時に映画化権も獲得されているとゆー話を聞いた段階から、この物語をホントに映画にできるのかなーと思ってた。が、これが本当に見事な脚本で。物語は当然かなり簡略化されてるものの、それよりむしろ情緒の部分のほうが物語の柱になっていて、あの長編をよくぞここまで脚本化したなーと思う。ル・カレ自身が製作・脚本に参加した『テイラー・オブ・パナマ』を超える、ル・カレ映画の最高傑作だ。なので、ホントは脚色賞も獲ってほしかったなぁと思いつつ、しかしきっと『ブロークバック・マウンテン』の脚色というのも、かなり巧みだったのであろうと思うし、地味っちゃあ地味に見える難しい役どころをものすごく印象的に演じたレイチェル・ワイズ助演女優賞だったので満足。原作ではもっと、知的であるのにカッコが露出過度でエロエロだったりして、フツウとは逆の意味で「人を見た目で判断するな」みたいな女性として描かれていたが。映画では、かなり知的で、だけど知性をひけらかさず内面から輝いている女性……みたいな感じで素直に描かれていた。最初ニコール・キッドマンがこの役をやりたがっていたらしいが、年齢的なことを別としても、彼女だったらいかにも「知的な女性」をデフォルメかけて演じたに違いないし、ちょっとハデすぎるかなぁ。まぁ、この映画はとにかく、ハリウッド・デビューとなるフェルナンド・メイレレスを起用したというナイスな采配がすべての勝因だな。
あとは、ご法度という意味では、ハリウッド的にはむしろ『ブロークバック・マウンテン』よりこっちの方がギリギリな題材でしょうと思われる『シリアナ』で、ジョージ・クルーニー助演男優賞というのは興味深い。原作が『CIAは何をしていた?』ですからね、一種の暴露本ですよ。タカモク言うところのボウロ本ですよ。フツーのエスピオナージュとワケが違いますもんね。