Less Than JOURNAL

女には向かない職業

取扱上のご注意:「WE」にあなた様は含まれておりません(別売?)

 18日に行われたオバマ大統領就任記念イベント“We Are One”。日本でも1月24日にWOWOWで放映されるようだが、昨日、アナタチューブなる場所を速攻でチェックしたら(笑)音楽パフォーマンスのメインどころはチェックできた。生中継したHBOの公式サイトの映像は、残念ながら私共の地域からの試聴は許されていない。アナタチューブ、ありがとう。

 いやぁ、ものすごいものですな。本当に。

 ひとりの音楽ファンとしては、とりわけ大好きなアーティストが大勢登場する豪華コンサートということで楽しみにしていた。で、そういう意味では、なんとかエイドとか、なんとかフォーなんとかとか、そういう、チャリティーという共通の目的があったからこそ実現した超ミラクルなオムニバス・コンサート……というものと同様のイベントともいえる。ただ、このWe Are Oneは、あくまで政治的な意義のもと開催されているわけで、他の一般的なチャリティー・イベントとはまったく別モノだ。ま、あくまで音楽ファンが音楽イベントについて語る視点としてご理解いただきたいのだが。音楽には国境がなくて素晴らしい、というのがチャリティー・イベントの重要な共通認識になるとしたら。このWe Are Oneは、正反対。時に音楽は「国境」というものの存在意義を人々に強く意識させるものであり、そして、ある局面においては、「国境」があるからこそ音楽は独自のパワーを持ち、育ってゆくものだということを思い出させるもの……なのかもしれない。ま、わたしにとっては、ですけどね。
 We Are Oneの「We」っつーのに私共は含まれていないのです。幸か不幸か。いや、幸でもあり不幸でもあるってことかな。「We Are The World」の「We」には、ギリギリのところで私共も入れてもらえていたかもしれませんけどね。
 で、わたしは、やっぱり、それでもアメリカの音楽がどうにもこうにも好きで、だからガッチリと国境に囲まれたアメリカの中で起こっている熱狂をひとつのカルチャーとして羨ましくウォッチングしながら、ああ、自分もあっち側に生まれたかったという思いと、こっち側に生まれてよかったなという思いに挟まれた複雑な感情でグリングリンと揺れながら、それにしてもこのイベントでのU2は「夜ヒット」の外タレ・コーナー枠に匹敵する立ち位置だなと首をかしげたりっつーわけだ(笑)。

 それにしても、とにかくボスがすごかったですね。
 いきなりオープニングに登場。現時点においては、地球最強のオープニングだったと言っても過言ではない。ステージには真っ赤なガウンに身を包んだ大ゴスペル隊、そしてアコギ抱えたボスが登場、背後には巨大なリンカーン像! で、歌うはもちろんオバマ選挙キャンペーン・テーマ曲となった「ザ・ライジング」。

 どっかーーーーーん!
 どっかーーーーーん!

 てな感じでしたね。リンカーン広場をとりまく、歴史の目撃者になるべく全米から詰めかけた人々のテンションもいきなり最高潮に。で、このイベントのラストを締めくくるのもボス。つか、ピート・シーガーとの《シーガー・セッション》。「我が祖国」の大合唱。ピート・シーガーといえば、あーた、ニューポートでボブ・ディランエレキギターの電源を斧でブッた切ろうとした人ですよ。つまりフォーク界では「チェンジにきびしい男」として歴史に名を残したガンコおやじが、今、オバマの「チェンジ」を支持しているという。ディランのチェンジは認めなかった*1男が、オバマのチェンジは「あると思います」ってこった。いやー、すごい。もう、感想も何もありませんよ。なんも言えねぇ。

 政治的な意図のもと集うイベントの善し悪しはわからない。つか、ケース・バイ・ケースだし、主観の問題だし、一般論としてどーこー言えない。ただ、いいとか悪いとかの問題とはまったく関係なく、民衆の心がひとつになった場所が持つエネルギーの凄まじさというものを思い知らされた。そして、そこにある音楽がもたらす、ひょっとしたら「音楽以上」のバイブレーションみたいなものも実感した。ちょっとこわいくらいに。このイベントに漲るポジティブなエネルギーは音楽ファンとして心地よく楽しいものだったけれど、時と場所によっては、このエネルギーがネガティブに転じる可能性もあるわけで。そのことを思うと、音楽っていうのはホントに諸刃だな。なめたらあかん!

 あと、個人的に興味深かったのは選挙キャンペーンではインディアナ担当(?)として大活躍したジョン・メレンキャンプの出演。しかも「PINK HOUSES」を歌った。この曲は84年にレーガンが再選キャンペーンのテーマ曲に使おうとしたが、メレが断った。そして昨年の大統領戦ではマケインがメレの許可なく使って、後に使用中止を求められたという。この曲を、大統領選の候補者たちが選挙キャンペーンのBGMとして使いたいと願うのはよくわかる(特に歌詞の面で)。でも、メレはこの曲が政治的に利用されることを望まなかった。が、今回、彼はこの曲をオバマ大統領のために歌った。

 スプリングスティーンは、オバマについて「彼は、過去35年にわたって俺が音楽のなかに描いてきたアメリカに語りかける」という風に表現したという。メレンキャンプも、おそらくスプリングスティーンとまったく同じことを感じたのではないか。しかし、まぁ、デビュー以来なにかっつーとボスと比較されては後追いのように誤解されてきたメレとしては、またしてもボスに先を越されてチェッという思いかもしれませんが(T_T)。

 しかし、メレ@We Are Oneはひっさびさに超チンピラチックでよかったなぁ。ギター抱えて、いつもよりガニマタぶりもUP↑で、もはやVシネ!?くらいのアンチャンぶりで。オープニングのボスとは対照的だった。歳も重ね、最近はここまでアンチャン風の人でもなくなってたと思ってたんだけど。なんか、シミケン入ってたよ。いや、違う、シミケンじゃなくて火野正平にそっくりだ! 20年前は佐藤浩市に似ていたのにね(T_T)。でも、これがまたカッコよかったです。あの場にいたら、何十万人の人たちの「Ain't that America〜」の大合唱は鳥肌が立ったと思う。あの場所にあれだけの人々が集まる風景は、まさにキング牧師の大集会をほうふつさせるわけで(←意図的にほうふつさせている、秀逸なメディア戦略)。そんな場面で、あの曲が歌われるなんて。

 そういえば、ガース・ブルックスの「アメリカン・パイ」っつーのも、選曲の意味深ぶりを増幅させるような大スペクタクルですごかったな。そこから「シャウト」に続くメドレーで、このコール&レスポンスも圧巻だった。ああいう「声出していこーぜ!」って感じの一体感のうまさはさすがガース兄貴だ(笑)。

 このキラ星のごときスーパースターズに祝福されるオバマ、スピーチのためにリンカーン像を背に登壇した姿はさながら皇帝のようであった。これからどんなことが起こるのかはわからないが、とにかく、国民の希望と祈りを一身に背負った人物のオーラはやっぱり、新しい歴史を期待させるに充分なものがあった。そして同じころ、我が国の最高議会では首相が蓮舫にガツンガツン叱られたり、漢字テストされたりしています。
 アメリカも大変そうですが、日本も大変です。




 しかし、それにしても、しつこいようだが、なぜU2
 ボノ……選挙権ないだろう(笑)。
 もしかして、まだノーベル狙ってるのだろうか。


☆参考までに、最近の、火野正平入っていない時のメレ。昨年ニューヨークでおこなわれたロックの殿堂セレモニーでの「PINK HOUSES」のパフォーマンス。後半、「♪Ain't that America〜」のところを、まるで我がステージのように本気(ガチ)でシャウトしている客席のビリー・ジョエルは見逃せません。

http://www.youtube.com/watch?v=0KcVMVc5gqk

*1:ま、厳密には“伝説上、そういう設定”ということだが