Less Than JOURNAL

女には向かない職業

RとLの発音が(LとRではありません)

 おいそれと手の届くお値段ではないが、Rルフローレンのブラックレーベルは、ミリタリーっぽい肩章のついたカーキのシャツワンピースとか、古着っぽいレースのブラウスとか、昔のアフリカ探検隊みたいな麻スーツとか(笑)そういう若者の着るようなアメカジアイテムを、ものすごーく上質な素材や手のこんだ刺繍で大人っぽく仕立てていたりして、あまりの素敵さに時々クラッとやらかしそうになったものだった(お値段を見たら正気に戻るので大丈夫です)。だが、最近はRルフローレン(特にブラックレーベル)を見ると、メラニアトランプさん思い出して全然ときめかなくなったよ。真冬でもノースリーブに、寅さん羽織り(袖通さないやつ)のカーディガン的な。サファリルックに20センチヒール的な。Rルフローレンとしてはピン子のシャネルみたいなもので困ってるのではないかと思ったりするが、他国で爆売れすればいいのか。

 最近は知らないけど、昔はハイブランドの広告ビジュアルのひとつの定番として〈ファーストレディのような〉というのが多かった。SPがずらりと並ぶ中に一輪の花、みたいな凜々しい感じ。あれはジャクリーン・ケネディさんのイメージから始まっているのだろうか。あるいは、80年代以降の働く女性のイメージとしての、ファーストレディを飛び越えて「え、女性が大統領!?」みたいなSF設定としての、かっこいいスーツにピンヒールにレイバンのティアドロップのスーパーモデルがさっそうとヘリコプターとかプライベートジェットに乗り込むようなビジュアルもありがちだった。〈高嶺の花〉だけど、お飾りではなく自立した知的でリッチなパワーウーマンという究極の一流主義ってことだったんだろうか。クリントン政権の時に、ヒラリー・クリントンバーブラ・ストライザンドがダナ・キャランを着て、イタリアやフランスのトップブランドに並ぶアメリカン・ブランドにした。それは、完全に後者の「えっ、女性が大統領!?」路線。嘘が本当かわからないけど、そのころダナ・キャランが始めたメンズラインのコンセプトが「ダナ・キャランを着た女性のパートナーが着るにふさわしい服」だったというのを何かで読んで「すげーな、大統領が女のお飾りになる時代!」と思ったことが懐かしい。そういう意味では、あの時代には遠い夢だった世界にヒラリー・クリントンは到達しつつあったのだ。到達しなかったとしても、それが可能だと皆が信じるところまでわずか10数年で至ったのだ。と、話はそれたが、メラニアさんのファッションは、世間一般のイメージとして浸透してきた〈ファーストレディのような〉的リアリティもないし、かといってケネディ夫人をほうふつさせると表されることも多かったミッシェル・オバマさんのように、相手や場所、時期によってデザイナーやデザイン、色などを細やかに考えて装うというおもてなし感もないし。素敵だけど、流行に敏感なモデルさんが「今年、寅さん羽織じゃないカーディガンなんてありえないわよ♡レディ失格♡」とか、そういう着こなしを見せてくれるお手本みたいな。

 そういえばソフィア・コッポラ監督『ビガイルド』で女性達が着ていた普段着も、とてもとても(ある時期の)Rルフ・ローレンを思い出させるものだった。南北戦争の頃のアメリカ女性たちの服。素朴なコットンのドレスや、スタンドカラーのブラウス。この時代のファッションを意識したコレクションをいっぱい出していた時期があって、あまりにも素敵でレースのスタンドカラーがついたプリント柄ダンガリーのブラウスとか、小花模様の長いワンピースとか買った。まぁ、私が着ると、忘年会で英語劇をやってる人みたいでしたが。それでも、街を歩きながら「オールド・ケンタッキー・ホーム」を口ずさみたくなる気分にしてくれたものだった。