Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ジョニデとロマポラ

深夜TVで『ノイズ』(1999・アメリカ)をやっていた。フツウの二枚目青年役をやってるジョニデは、なんとなくブラピのコスプレ状態だな(笑)。という発見以外には、特に見るべきところもない。世紀のトンデモ映画と断言してもよい。見事なスーパー駄作SFサイコホラー。ではあるのだが。ロマン・ポランスキーのファンに限っては、いちどは見ておかねばならぬアイテムなのだ。いわゆるウンコ・ブートと呼ばれる(←呼ばれてねーよ)15分くらいの営業ライブの極悪オーディエンスとか、妙チキリンなカバー・バージョンも、マニアならば聞きたくなくても泣く泣く買わねばならないのと同じことだ。なぜなら、この作品は自称『ローズマリーの赤ちゃん(Rosemary's Baby)』へのオマージュであり、なんと原題は"THE ASTRONAUT'S WIFE"(泣笑)。
いやぁ、ホントにひどい。オマージュというか、めちゃめちゃなリメイク。ストーリーといい、もろミア・ファローの髪型や60年代ファッションをマネしてるシャーリーズ・セロンといい、若い宇宙飛行士と小学校教師の夫妻という設定を無視した豪華でスタイリッシュな住まいとか、あとは映像のアングルも随所でオマージュしまくりだし……もう、イヤになるほど“ローズマリーの小ネタ”がてんこ盛り。しかし! 肝心の、オマージュだかリメイクだかの動機がまったくわからん! いったい、どこをどうしてどーやったら、大金を投じて“Xファイル版『ローズマリーの赤ちゃん』”みたいな意味不明の発想が生まれるんじゃい! しかしまぁ、ここまでヒドイと、ある意味ではモノスゴイ映画なのかも。

そもそもジョニー・デップシャーリーズ・セロンというビッグ・スターが、なんでこんなトンデモ映画に出演したのかもわからんし。ナゾだらけ。とりわけデップは、仕事を選ぶ男として有名だとゆーのに何故だ? なんか、実は、駄作だ珍作だと騒いでいるのは愚かな庶民だけで、ホントはものすごい「真実」が隠されていて、これを見た政府高官はガクガクブルブル……みたいな、Xファイルに出てくるような裏事情があったりして。で、ホントに宇宙人の陰謀かなんかで作られた映画なのかもしれない。とさえ思うほど、この完璧なまでのトンデモ度はナゾだ。

あ。でも、シャーリーズ・セロンが超カワイイ。それだけでもじゅうぶん見る価値はあるかと。当時シナトラのロリロリ新妻だった(!)ローズマリー役のミア・ファローの美しさたるや奇跡的なものがあったが。ひょっとして、あの時のミア・ファローをセロンにやらせたいがために企画された映画だったと言われても、それはそれで納得してしまうかも。でも、やっぱし、宇宙人の陰謀で作った映画のほうがおもしろいけど。

で。
ジョニー・デップは『ノイズ』と同じ年に、ホンモノのポランスキー監督作品『ナインスゲート』でも主演している。いったい、どういう偶然なのか。『ナインスゲート』というのも賛否両論のある奇妙なスタンスの映画だが。ポランスキー監督にとっては、まさに『ローズマリーの赤ちゃん』以来の悪魔教(みたいな概念)を真正面からテーマにとりあげて撮った作品だったわけで。同じ年に、デップがねぇ。と、偶然でも意図的でも、ちょっとゾゾッとする話ではある。

そして、デップというのは“ポランスキーチック”なところがあるのだろうか。つか、たぶん、あると思う。なんか、ポランスキーのタッチを好む人に好まれる“ダークサイド”を見せる希有な俳優というか。このことを確信したのは、『シークレット・ウインドウ』(2004年)を見てからのこと。本編を見ている時は別に気づかなかったのだが、監督のデヴィッド・コープが音声解説で、やたら「ここはポランスキーみたいに……」みたいなことを語っているのだ。ちょっとした不安感を煽る映像とか、微妙にイヤ〜な雰囲気の出し方とか、言われてみればナルホドという場面がいっぱいあって。原作がスティーヴン・キングで、主人公は小説家だし、この映画はけっこう『シャイニング』と比較されがちだったようだが。実はどっこい、かなりポランスキーの影響を受けてるみたい。そういう監督だから、ジョニー・デップの存在感をうまく生かしたんだな。この映画でのデップはすごく好きなのだが、それってようするにポランスキー好きの視点で見たデップなのね。

そういえば、ポランスキーがハリウッドの、いわゆる「ドル箱俳優(♂)」を起用したのって、『チャイナタウン』のジャック・ニコルソンと、『フランティック』のハリソン・フォードと、ジョニー・デップくらいではなかろうか。そういう意味でも、ポランスキーが起用するだけの何かがある俳優なのだろうし。ポランスキー自身のみならず、他の人のポランスキー的なインスピレーションをも刺激する存在なのかな。つーか、ポランスキー自身とはさほど深く関わっているわけでもないのに、そーゆー存在だとゆーのはすごい。と思って、ためしに最近のデップ主演作で「もし、これがポランスキー監督作品だったら」と妄想してみたら、けっこうすんなり妄想できる作品ばかりだった。楽しい。妄想が(笑)。『リバティーン』なんて、まさに『オリヴァー・ツイスト』と表裏一体な側面もあるしね。チョコレート工場もあり、と思います。そう考えると、デップのパートナーがバネッサ・パラディだとゆーのも妙に納得しちゃったりして。ま、それはさすがに超コジツケではあるが。

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