Less Than JOURNAL

女には向かない職業

スコーピオン

本来ならば、今ごろは前夜のポール・アンカ公演を思い出してはウットリと余韻に浸っているはずであった。今回はビッグ・バンドを率いて、ボン・ジョヴィの「イッツ・マイ・ライフ」やニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」やサバイバーの「アイ・オブ・タイガー」を4ビート・アレンジで歌ったゴージャスなアルバム『ロック・スウィングス』からの曲をたっぷり聞ける……はずであった。アンカさんのコンサートは写真オッケーなので、客席後方から「ダイアナ」を歌いながら登場するアンカさんを激写するはずであった。今度こそ「ポールゥ、ポォォォール!」と叫んで、カメラ目線をもらう予定であった。ああ、悲しい。

ロック・スウィングス

ロック・スウィングス

あまりに悲しいので、今日はどさくさにまぎれてアンカさん絡みの映画を紹介する。

栄えあるゴールデン・ラズベリー賞5部門にノミネートされた、世紀の怪作『スコーピオン』。ケヴィン・コスナーカート・ラッセルクリスチャン・スレーターコートニー・コックス、おまけにアイスTまで、超大作級の豪華キャストを配してトンデモ映画を撮るという、ある意味、ものすごく贅沢をきわめたB級ピカレスク・アクション・ロードムーヴィー。
揃いも揃ってワケありのならず者たちが共謀して、エルヴィスのそっくりさんコンテストがおこなわれているラスヴェガスのホテルを襲撃する。全員がエルヴィスのそっくりさんのカッコをしているので、全然あやしまれない(めちゃめちゃあやしいカッコなのに)。逃走時も、逃げまどう客の中に見事にまぎれてしまう。ギター・ケースに機関銃を隠している。『オーシャンズ11』みたいな、小粋な仁義など皆無。全員が悪いヤツ。そんなワルたちを手玉にとろうとする、これまたワルな女もひとり。しかも、ワルの中にはエルヴィスの隠し子がいるかもしれないという、よくある話のオマケつき。
という、めちゃめちゃな話。オープニングのタイトル・バックからして、ものすごく凝ったメカ・スコーピオンがえんえんバトルしているという、よくわからないカネのかけかたをしている。アイスTも、おバカっぷり炸裂で暴れまくってる。しかし音楽は、ギンギンにナウなビッグ・ビート。よくわからん! もちろん評判は悪い! しかし、なぁ〜んだか、めちゃめちゃカッコいい映画なのだ。フシギと心にひっかかるモノがある。正直、映画の感想を四文字熟語で表現すれば「支離滅裂」以外のナニモノでもない。が、バカバカしいというヒトコトでは片づけらんない、ヘンな余韻が残る。
あえてバカ映画みたいに見せかけておいて、ホントは、これをバカ映画と片づけるヤツのほうがバカなのかもしれない……と、裏の裏の裏のまた裏を深読みしたくなるような映画なのである。バカを装って、ホントのバカにバカにされるのが快感……みたいな、かなりハイレベルなインテリ・マゾの匂いがしないでもない。というか。
これは日本人だから、客観的というか他人事のように見ているから感じることかもしれないけど、どこかアメリカを戯画化しているような視点も感じる。捩れた現代アメリカの構図、なぁ〜んて感じのコト。それは、これだけのハリウッド的な豪華キャストであまりにもバカバカしい話を仕立てあげる皮肉も含めて。そもそも、こういう面々が出演をオッケーする時点で、やっぱり何か深い意図があるのかなとも思うし。アメリカのホントの深さは、こういうひょんなところから見えてくることもある。

で。なんでこの映画がポール・アンカ絡みかというと。なにを隠そう(←別に隠してない)、アンカさんもちょこっと出演しているのです。きゃぁ☆
エルヴィスそっくりさん大会が開かれるカジノ・ホテルのマネージャー役
もう、あまりにピッタリ。コワモテと書いて極悪と読むって感じで、サイコーです。その人相の悪さたるや、ステージでの満面の笑顔とあまりにウラハラでセクスィー。
で、そのアンカさん演じるマネージャーがホテルのエレベーターに乗る場面、エレベーター内で流れるBGMが「ユー・アー・マイ・デスティニー」だったりするんで大爆笑。そいえば、映画の最後に流れるのは「マイ・ウェイ」だし←こちらはエルヴィス・バージョンだが。

しかし、よりによって、わざわざアンカさんをさりげなーく出演させるあたりの芸……というか、キャスティングの細かさもまた、この映画が孕んでいる「なんかあるゾ」感をますます際だたせている。こういうエルヴィスそっくりさん大会をネタに使った映画って、たいていはエルヴィスへのあーだこーだのウンチクとかリスペクト・ネタがイヤミな感じで使われていたりするけど。そういうのもなくて、ただ、ごくごくフツーにアメリカの日常のひとつとして「エルヴィス」という現象を描いているあたりも、ウンチク羅列よりも逆に深い理解と愛を感じたりして。
そもそも、ケヴィン・コスナーとかカート・ラッセルのエルヴィスがめちゃめちゃ堂に入ってるのだ。もう、これは昨日今日のツケヤイバでは出来ないだろうというなりきりぶりがいい。特に、このふたりはもともとふだんから、アメリカの伝統というものに対する敬意というものを随所に感じさせる役者さんでもあるし。カート・ラッセルが歌って踊るエルヴィスは、かなり必見。これを見るだけでも、この映画を見てよかったーと感動する。

スコーピオン [DVD]

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