Less Than JOURNAL

女には向かない職業

グレート!アメリカン・ソングブック

  • 『The Great American Songbook』Carmen McRae (ATLANTIC MASTERS)

なんだかホントに、反芻の季節なのか何なのか。最近、ハタチ前にワケもわからず読んだり聞いたりしたものが胃の奥から20数年ぶりにこみあげてきて「やっぱりあれは旨かったなぁ〜」みたいなことが続いている。牛どころか、シッポに落ちてきた石の痛みを感じるまで30分かかるナントカザウルスのようだ。特に、ジャズ売場が想い出への小径状態で、何か探しに行くたびに「なつかしアイテム」を次々と見つけてしまってノスタルジー
この『The Great American Songbook』は72年のライブ盤で、後に2枚組の完全盤として再発された。よく覚えてないけど、確か完全盤が80年前後くらいに出て『スイング・ジャーナル』で話題騒然になっていて、で、渋谷西武のディスクポートの正月セールで買ったのだった。お年玉で。

あまりにもそのものズバリのタイトルどおり、まず選曲が素晴らしい。でも、これを買った時には、もっとおなじみのジャズ・スタンダードがいっぱい入ったアルバムだと思ってたのに、「酒とバラの日々」とか「遙かなる影」とか超有名な曲以外は知らない曲だらけでガックリしたのを覚えてる。ただし、ガックリしたというのはアルバムに対してではなく、「グレートなソングブック」に収録されている楽曲をほとんど知らない己の無知に対して、である。でも、おかげでいろんな曲を知ることができた。ドゥーワップでおなじみ「瞳は君ゆえに」も、このアルバムで初めて聞いた。しかし、あれから幾歳月。本当に趣味のいい、というか、アメリカ人の感覚でとらえた「アメリカの歌」というものが1曲1曲ていねいに写真アルバムのように並べられている、まさに「ソングブック」と名づけるにふさわしい愛しさにあふれたアルバムであることよのーとしみじみ思う。バーブラ・ストライザンドとか、極端に言えばセリーヌ・ディオンとかあたりまでの広〜い意味でのアメリカン女性ポピュラー・ボーカル界における、カーメン・マクレエの立ち位置……みたいなものまでもが見えてくるアルバムだ。彼女の歌のうまさは大前提として、この選曲に対する敬意がにじみでる歌声のていねいさとか、ジョー・パス、ジミー・ロウルズらバック・ミュージシャンたちの何とも“品位”のあるハジけっぷりとか、このアルバムにおける、演奏者たちの「伝え方」がゾクゾクするほどスペシャルでステキ。
子供の頃、エラとかサラがスゴいのはわかっていても、今ひとつ身近な親しみを感じられず、わたしはカーメン・マクレエがなんだか好きだった。理由はわからなかったけど、今になってみればナルホドという感じだ。女性ボーカルではカーメン・マクレエと、ぐっとR&B寄りだけどロバータ・フラックが好きだった。というのは、今になってみると後の人生を暗示しているなぁ。我ながらスジは通っている。というか、ま、いかにも「時代」を感じさせる嗜好だな。70年代中盤から80年代にかけて、ジャズ→クロスオーヴァー期に『スイングジャーナル』と『アドリブ』を併読していた子供ならではのシュミだな(苦笑)。
で、たぶん20年ぶりくらいに聞いた。聞いてみて、よく聞いていたんだなぁ……と思った。なんか、ものすごくよく覚えている自分にビックリしたのでした。1曲めの「サテン・ドール」で、カーメンが“ジョー・パス!”って紹介して始まるギター・ソロ。そうそう、これこれ。いやー、カッコいいッ! こんなにカッコよかったっけ!? と思うくらい、トリハダもの。昔よく聞いていた音楽を今になって聞いて「こんなにしょぼかったっけ?」と思うことは多いけど(笑)。ジャズ系は、昔よりもカッコいいと思うものが多い。スキルの問題なのか? ジャズだけ聞いてる時よりも、ジャズ以外のものをいろいろ聞いて「戻って」きた時のほうが、先入観とか固定観念から解放されてるからなのかな……とも思う。ハタチ前は、それこそ『スイングジャーナル』と『ジャズ批評』と『ジャズライフ』と『アドリブ』に書いてあることを丸暗記するほど読んで、全部鵜呑みにしてたからなぁ。だから「シャリコマは悪」とホンキで信じてたし(笑)。
そういえば「サテン・ドール」のイントロのところ、最初に買ったアナログに鳥のフンみたいな白いカタマリがついてて針飛びするので、たいていイントロの頭は飛ばして聞いていた。なので、今回CDで買ってようやく安心してイントロの、チャック・ドマーニコのベースをちゃんと聞けるようになった。つーことだ。

タワーで見た時は、輸入盤のアトランティック盤デジパックと、ライノのプラケース(両方とも1枚組)しかなかったけど、2枚組の完全盤も出ていたよ! おまけにCD化で8曲ボーナスみたいだ。すげー。でも、結局、今聞いてる1枚組が程よい長さで、かけかえる手間いらずでスッキリ聞きやすいよーな気もしつつ。いちお、さっそく完全盤もワンクリックはしたけど、ただ、オリジナル・リリース2枚組への愛着は変わらないと思う。完全盤では曲順もけっこう変わってるようだし。

ちなみにジャケ中の、カーメンと愛犬アルフィーが波打ち際にたたずむ後ろ姿シルエットの写真も、なんともいえずセンチメンタルでよいのです。

グレート・アメリカン・ソング・ブック(完全盤)

グレート・アメリカン・ソング・ブック(完全盤)

日本盤の正式タイトルはちゃんと「ソングブック」になってたけど、尼ゾンではことごとく「ソング・ブック」になってる。「Songbook」を「ソング・ブック」って書かれるのが、わたしはとても嫌いだ。