Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ガブリエル・カハーン

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 3月にニューヨークフィルとのラヴェル/ワイル/ガーシュウィンNightを指揮したジェフリー・カハーンさんの息子さん、ガブリエル・カハーンのニューアルバムが完成。といっても、実は息子さんのことはあまりよく知らなかったのです。が、なかなかに素晴らしいです。ブルックリンなインディー・ポップ・サウンドから、90年代アーバン・ジャズ・ソウルの空気までが渾然一体としているような……。地に足ついたオトナの音というか、とりわけ音と音の行間の美しさがとても印象的。オルタナティヴなランディ・ニューマン、みたいな雰囲気もあるかな。曲のタイトルにはすべてLAの地名(住所まで)。社会的なものを含む題材の求め方などはニューマン的ともいえるし、ジョン・アダムスを思わせるようなところもありそうだし(……な気がする。て、まだちゃんと歌詞を読んでいないのですが)。これでヴァン・ダイクのようにクラシック音楽が隣接してる感じとかあったら、いかにも……という音楽(アメリカ版インテリ派渋谷系w)になるのだろうけれど。もともとがクラシックのほうから始まってる人(家系もそうだし)だけに、そこの線引きをきっちりしていて、だけど音楽の端正さにそういう《ルーツ》が透けてみえるのも面白い。その絶妙な距離感が、独特の磁場を生みだしているような気もする。漠然とした感想ですが。

 

Ambassador

Ambassador

 

 このアルバムからの先行ビデオ・クリップ。


Gabriel Kahane - Bradbury (304 Broadway) - YouTube

 

実際、彼自身は現代音楽の作曲家でもあるらしいし、シンガー・ソングライター活動と同時にクラシック系の奏者と組んだ実験的なパフォーマンスもやっていたり。

で。そういえば!ですよ。クラシックでロックなアメリカーナといえば、我らがクリス・シーリー君がいるではないですか。というわけで、探してみたらやっぱり……というか、彼をゲストに迎えたライヴもあった。ランディ・ニューマンの曲なんかもカヴァーしていて興味深い。それにしても、マンドリン抱えたシーリー君はいつでもどこでもホントに楽しそうだな。この姿を見るだけで、なんだか幸せになっちゃう。

いやぁ、しかし、カハーンさん素敵だなぁ。ロックな色っぽさがあるけど、絶対にエロいシモネタとか言わなそう(笑)。お父さんともども、本当にかっこいい親子だなぁ。全然ぶれてない。

 


Gabriel Kahane - Villanelles - YouTube

 

アメリカはダーウィンの進化論を否定しても、音楽は確実に進化を続けている。

日本ではまだまだ「クラシックとロックの融合」と言うと“お芸術が下野なう”的っつーか、誰も頼んでないのに“クラシックを身近にしてあげる”的な、つまり、上から目線のアイテムとかが圧倒的に多い気がするのだが。そうじゃなくて、私は、こういう自然体のクロスオーヴァーがもっともっと見たいのである。

ビートルズだってディランだって、どんどんクラシックに近づいてゆくわけで。クラシックが死なないように、そのためにも音楽は進化していかなければならない。そのことを最近、ようやく実感として理解できるようになってきた。で、そういう過程の中で、こうやって笑顔で垣根を越えて行き来をしているような若者たちが頼もしく思える。

この10年あまり、ノンサッチというレーベルが音楽文化の本質という意味でどんどん重要性を増しているわけだが。そういえばクリス・シーリー君は、今度ノンサッチのアニバーサリー・コンサートにも出演するんだよ。そういえば先日、ジョン・アダムスのドキュメンタリーを見ていたらノンサッチの社長が出てきて、とにかく自分にとってのアダムスさんというのは、同世代の人間としてめっちゃ共感できる音楽家なのだと熱く語っていた。つまりジョン・アダムズのありかたというものが、ノンサッチのレーベル・ポリシーと重なるということだ。なるほど、と思った。やっぱり、もはやアメリカ現代音楽を避けて通るのは、無理だなと思った。ここに目をつぶってしまったら、ダメだ。

「わからない」アメリカ音楽は、なぜこんなにもドキドキさせてくれるのだろう。「わかりたい」から焦ってドキドキするのではない、自分には「わからない」音がそこに生きているという現実にたまらなくときめくのだ。

●父カハーンさんのコンサートを観た時の日記は《すべての道は『SMiLE』に通じる》へ。

http://d.hatena.ne.jp/LessThanZero/20140409/1397069085